清武管理栄養士から



「切り干し大根」との「絆」

管理栄養士 清武泰子

 今回は、私のかんぶつ一番の想い出を語ることにします。
 人それぞれ「かんぶつ」という言葉からイメージする物はいろいろお有りでしょうが、私の頭の中には、真っ先に「切り干し大根」が浮かびます。
 昔々、私が小学生だった頃、学校帰りの道すがら各々の家から夕飯の仕度をする様々な匂いが漂ってきます。魚を焼く匂い、だしを取る匂い、しょうゆの匂い・・・。
 今晩のうちのおかずはなんだろう?と、家の近くになるとわくわくする訳ですが、私の鼻は切り干し大根の匂いをかぎわける・・・。
 「ああ、うちじゃないといいな」と祈るように戸を開けると強烈な切り干し大根の匂いがふわ~っと私を襲う。「ありゃ~、うちが切り干しだったのか・・・」  その頃の私は、切り干し大根の炊いたのが大嫌いでした。にもかかわらず、この切り干しはよく食卓に登場し、食べ残しを許さぬ家であった事から、悩まされたものです。
 この切り干しを炊くのは私の祖母。いつも着物に白いかっぽう着を着て台所を守っている、という感じです。
 大家族でしたから、七輪に大鍋をかけ、ゆっくり、ゆっくり煮含めている姿を思い出します。まだガスもなかったのか、(うわぁ!私って大昔生まれなんだ!!)調理はくどか七輪。切り干しに限らず、椎茸や昆布、お煮しめ等、ことことと時間をかけて炊いていました。
 切り干しの時は寄りつきませんが、里芋の煮しめ等、好物のときは鍋をのぞくと祖母が口の中にふうふう吹いて入れてくれたっけ・・・。
 祖母は私が10歳の時に亡くなり、時間をかけて丁寧に炊いた切り干し大根の味を残念ながら忘れてしまいました。その後、私は切り干し大根が大好物となり、今はひんぱんに食卓に登場するのですが、祖母のように七輪でことこと丁寧に、という訳にはいきません。
 それでも、私が怖くて一応「おいしい」と言ってくれる夫を横目に、祖母の炊いた切り干しは、どんな味だったのか、手抜きせず丁寧に時間をかけたきり干しは私の物とどう違うのだろうと思いを巡らせるのです。
 よって、私の「かんぶつ」№1は、幼い頃嫌いで悩まされ、成人してからは祖母の姿とダブッてしまう「切り干し大根」であります。



All Rights Reserved 食品産業情報センター 福岡県朝倉郡筑前町依井1091-3
リンク

海苔ジャーナル
 エキスプレス

こんぶネット