乾物の知識



寒製品の特長:凍豆腐

 寒製品というものは、真冬の冱寒(ごかん)を利用し、食物を寒気に晒して自然に凍結させ、その腐敗醗酵を止め、長く保存に耐え得るようにしたもので、わが国ではいろいろの食物の保存にこの方法を行なっていますが、乾物類のうちには凍豆腐、凍蒟蒻、寒天、その他数種を数えます。
 
凍 豆 腐(こおりとおふ)

解説 むかし、紀州高野山の宿坊で、その製法を創めたといい、今も「荒野豆腐」の名で通っている。原料は主として大豆を用い、豆腐を厳寒に晒して凍結させ、天日乾燥又は火力乾燥したものであるが、今は大部分火力又は蒸気乾燥を行なっています。昔から近畿における僻陬の山村の特産物として発達して来たり、その著名な産地は和歌山県の高野山と葛城山、奈良県の野迫川と小倉山、大阪府下の南河内郡金剛山と北摂方面。
 これに次ぐのは、長野、兵庫、徳島等の各県下及び朝鮮です。別に大阪市網島の日本冷蔵株式会社では冷凍製品を出し、前掲の天然凍豆腐に対して冷蔵凍豆腐として声価を競っていますが、天然品は冬期60日間前後の製造なるに、冷蔵品は年中絶えず製造される所に特長があります。
 而して、この品は従来近畿を中心とし関西地方に多く消費されたものですが、近年は東京をはじめ関東にも普及し、ほとんど全国的に家庭の食膳上るようにました。
 一方、満鮮や支那、南洋、欧米にも少量ながら輸出されています。そして製品は年々改良を加えられ、重曹戻しを要しない新製品もすでに現れ、形状に真意を凝らすもの、原料に落花生や胡麻などを用いるもの、或いは長野県の某品の如き澱粉加えたのも出来ています。
 
成分及び栄養価 凍豆腐の原料は大豆であるから、非常に栄養価の高いものです。その一切れは生豆腐一丁の四分の一弱に当り、凍豆腐四切れを食すれば、成人の栄養を充たし得るといわれます。試みに陸軍糧秣廠調査による成分表を掲げれば、蛋白質・50.79%で全量の過半を占め、次に脂肪が約2割で20.19%。含水炭素・11.49%。灰分・3.64%。カロリーは1g当り0.59、1匁当り2.21、1匁当り2.21、各食品と比較するに牛肉や鶏卵よりも遥かに高く、しかも価格は至廉(しれん)です。あらゆる食品の番附(ばんつけ)を作ると、凍豆腐は蛋白質で大関、脂肪では関脇の地位に居ります。もって如何に栄養価の豊富なるかを知られましょう。したがって、発育盛りの子供や乳児を持つた婦人には最適食であり、壮年者、老年者の蛋白質補給には好適で、肥りたい人には大いに食用をお勧めしたいものです。

 豆腐類の栄養価対照表を参考に供します 成分(%)
品 目水分蛋白質脂肪炭水化物灰分カロリー(匁)
豆 腐88,796,552,951,050,662,21
凍豆腐15,2950,7920,1911,493,6416,61
生 揚78,6610,288,202,030,834,78
 油 揚57,40 21,9618,72   0,492,15      9,87
 湯 葉22,85 51,6015,62   6,653,28     14,40
豆腐粕85,66  3,66 0,84   6,353,49      1,83
  

用い方 精進料理や魚菜肉の煮合わせ、惣菜料理にいろいろの調理法があり、すき焼きの加薬や、洋食のスープなどにも使われています。調理法を研究したならば、種々の珍しい料理が来ましょう。

調理上の注意

凍豆腐を調理なさる時、煮る前に灰汁抜きをすることは従来の習慣になっていますが、絶対的必要のものでもありません。しかし、灰汁抜きするには、在来の如く重曹をたっぷり用いては、質が柔かくなり過ぎて、大変風味を落しますから、なるべく避けたがよいと思います。
 水か湯の中へ暫く浸して手の平で押し絞る、それを2~3回繰り返せば充分でしょう。なお近年は製法の改良によって、灰汁抜き無用の品が出来ています。これは、水か微温湯に数分間浸して水気を絞り、そのまま煮るとよろしいのです。ここには大阪割烹学校長的場多三郎さんのお話をそのまま載せて置きます。

選び方注意 凍豆腐は選び方法から注意が肝要です。豆腐の色のさえたもので、表面に分子が表れて触ればポロリと落ちたりするのは良くないです。ことに一方が縮んで、いかにも固そうに見えるものなどは炭酸ソーダでも戻すことが出来かねます。いわゆる性の悪いものです。やはり品の良いものを選ぶことが大切です。

戻し方法 およそ5合位の湯に重曹1匁(約3.75g 約小さじ中・小1杯位)を入れ、ザッとかきまぜた中に凍豆腐を5~6個入れ、ピッタリと蓋をして静かに上下に打返し、暫くそのままにしておきますと、ズッと柔かくのびます。あまり熱湯すぎたり、重曹が良く混ざっていないようですと、表面だけ柔らかく中が固くなったり致します。
 さて、ほど良く戻った豆腐の中には、重曹が含まれているわけですから、前の湯を静かに流し捨て静かに片側から水を加えます。そして豆腐を一つ一つ左手の掌にのせ右の掌ではさんで静かにしぼります。これを別に水を汲み入れた容器の中に入れておくのです。かくすること3回ばかり繰り返しますと、ついに重曹分が追い出されてしまう、俗に「高野を洗う」と言っていますのは、このことを言ったものです。
 以上は凍豆腐の形を完全にして用いる場合のことですが、その形をすっかりミジンに崩してしまって、お料理をする場合もあります。この場合の戻す時には、少々こわれてもかまわぬつもりで致せばよいわけです。そして、1個づつ布巾に包んでもみ砕きます。また、戻していない原型のままの時に卸し金ですりおろして、ボロボロにしてから、前述の割合の湯をそそぎ込んで蓋をしておけば細かい分子のままで柔かく戻るわけでございます。布巾に包んでしぼり揚げるか、笊に布巾を敷いた中に流し込んで水を流しても良いわけです。

(編者曰く、凍豆腐をミジンにしてお使いになるならば、公設市場その他乾物店では「折れ豆腐」といって、凍豆腐の形の潰れたものを別に安く売っていますから、これをお買いになるとお徳用です。また「折れ豆腐」を篩いにかけた粉状のものも販売しているところがあります。)

 出汁の割合 煮物の場合と、漬け汁の場合と、味噌汁の場合というようにザッと3別しておきましょう。
   ①吸い物等の場合には水(3合)、味の素(1匁)。
   ②煮物の場合には水(2合5勺)位にして味の素(1匁)。
   ③味噌汁の場合は、水4合位に味の素(1匁)。
と言うように薄めた方がしつこくないでしょう。

炊き方法 普通の形のままで炊き上げるには、絞り上げた凍豆腐を鍋の中になるべく詰めて平らに入れた方がよろしい、そして出汁をひたひた位に加えます。つぎに出汁のおよそ4分の1の醤油(薄口)と、醤油の3分の1の味醂と、3分の2の砂糖を加えて落し蓋をして中火で静かに炊き上げるのです。強火で焚きますと形がこわれます。以上の味加減は大体の分量を示したまでですから、ようは、各自の好みの加減にすればよろしい。



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