乾物の知識



乾海苔

解説 乾海苔を製する海藻は紫菜(あまのり)と呼ばれるものです。この藻は淡鹹水(たんかんすい)の適度に混流する静かな浅海(せんかい)において木や竹に寄生しますが、往時より紫菜(あまのり)の生育に適する場所を選んで、木又は竹のヒビというものを建込み、それに紫菜(あまのり)が着生して繁殖するよう人工養殖が行われています。
現在の各海苔浜は、悉くこのヒビ建の方法によるのです。海苔名所の東京湾内では秋の彼岸前後から建込みにかかり、十月半ば頃には海苔の着生を見、十一月末から採取を始め、翌春の四月頃まで採取と製造を続けます。 

◎乾海苔製造法 原藻から塵埃(じんあい)、汚物を選別け、汐水でよく洗い、十分水切りした後少量づつ盤上に載せて薄切り包丁で細切し、これを三斗位の淡水中に大約二升の割合で混合し、桝と称する長方形の小さい木箱を以って これをよく攪拌しながら掬ひ(すくい) 流し台の上に葭簀(よしず)を重ね その上に枠を据え置いた中に急激に平均に投入れ 枠を叩き水を漏らし水切台の上に斜めに立てて十分に水切りして後、簣(ザル)のまま日光に裏面をむけて乾燥台上に並べ又乾燥枠にかけて乾燥すること約3時間で反覆し 更に表面を一時間位日光に當てて十分に乾燥した時簀上より剥がし取り、十枚を一帖として折畳み、細い紙片を以って結束する。
 
 乾海苔産地は東京湾内(東京府下および千葉県下)が全国第一で寝室最も優秀その産額も多く古来「浅草海苔」の名で喧伝(けんでん)し、乾海苔の事を単に「浅草」というほど人口に膾炙(かいしゃ)されています。次に朝鮮南部の全羅、慶尚各道の沿岸は輓近(ばんきん・ちかごろ)二十年来養殖事業の発達を見、逐年躍進的に産額を増進しつつあります。また愛知県の愛知海苔や三河海苔、三重県の伊勢海苔などは品質において浅草海苔と拮抗するに足るほどの実勢力を示し、広島、山口、和歌山の各県、九州および仙台地方も古くから産地として知られた所でございます。

 乾海苔は漉きかたにより大判と小判に分かれます。その大体の標準を示すと下記の通りです。

乾海苔の寸法
 小 判 横 19,090cm (6寸3分)
      縦 20,600cm (6寸8分)

 大 判 横 21,515cm (7寸1分)
      縦 22,725cm (7寸5分)

乾海苔の目方
 小 判 234,72g   (60匁以上・約225g)
 大 判 小判の2割以上増

 品位に就いては、各産地において生産および移出検査を行ないますけど、その等級は各地マチマチなので一定した標準を示すこと困難です。

鑑別と貯蔵法 乾海苔の色は天候や日当たり具合で変わって見えるもので、斯業(しぎょう)の経験家でも鑑別を困難とします。良質のものは黒紫色を帯び光沢が強い、日光にすかして青色に見えるのが上等品です。保存法としては営業者は新製品の一巡出回った後、「火入」と称して特殊装置の焙乾室に入れて乾燥し、内面にブリキ板を張った木箱に納めて目張りをなし、湿気を防ぐことにしていますが、湿気を帯びると品質を落とし、味を悪くいたしますから、家庭でもブリキ缶または目張りした箱などに入り麦を底に入れ、新聞紙に包んでしまうか、炭の粉を底に入れ、その上に紙を敷いて入れ置けば安全であります。なお一度焙った海苔を翌日其のまま使用する場合は、錫器(すずき)の中に入れて蓋を固くし、密閉して置くのです。

 ◎乾海苔の産額 全国における乾海苔の重なる産地及び産額は下記の通り(昭和5年度)

地 名 産 額(枚数) 地 名 産 額(枚数) 
東 京 250,000  朝 鮮  200,000 単位(千枚)
尾 張  50,000  三 河   40,000
駿 河   7,000  広島山口 60,000
紀 伊  10,000  九 州   25,000
伊 勢  20,000  仙 台    7,000 計669,000

成分及び栄養価 本項については、最近、大阪市立衛生試験所栄養研究部主任下田吉人技師は詳細な研究を発表されています、その要旨を載録しましょう。
 (前略)最近栄養学の発達につれて、この海苔にも大した栄養価があることを知りました。それは海苔中のビタミン類の豊富な事と灰分に貴重なものが多いと云う事であります。
 先ずその成分を検しますと、その一例は
  水分    蛋白質   繊維   炭水化物  灰分
 14.10% 26.14% 5.50% 44.51% 9.45%
と云う数字を示して居ります。このうち蛋白質と灰分中の食塩とは海苔の品質と関係を有するもので、
    一等品  二等品  三等品  四等品  五等品  
乾燥物質94.3194.3493.1193.9994.75
全窒素量 6.91 6.56 6.37 5.86 5.81

 この窒素量に6.25と云う係数をかけて蛋白質の量としますが、これで分かるように品質が好いほど、蛋白質の含有量が多く、また別に食塩の量を定量して見ると、上等の品ほど少なくなって居ります。
 この分析表から見ますと蛋白質も多いし、含水炭素(炭水化物)も多く、なかなか好い食品だといいましょう。
併し(しかし)海苔の栄養価の主なものはこれ等の蛋白質とか含水炭素(炭水化物)でなく、寧ろその豊富なるビタミンの含有量にあると信じます。ビタミンAとビタミンBの豊富な事については十年程以前に私達が発見しました。その他のビタミンについては未だ研究報告を見ませんが、CはともかくDもEも当然含有されている事と考えます。
 斯様に(かように)乾海苔は陸上の野菜類に勝るとも劣らぬ栄養価、ことにビタミンの大量を含有して居りますが、この他にもう一つ陸産植物の及びもつかぬ特徴を有しています。それはその灰分殊(こと)にヨードに関してであります。ヨードは極少量でも重要な作用をなすもので、之が海苔やその他の海藻類に多いと云う事は、日本人に取って極めて恵まれた事実であります。
 ドイツの山岳部、スイス、チベット、蒙古等の海藻の手に入らぬ地方には甲状腺腫と云う厄介な病気が発生します、これは甲状腺という成長やその他に関係の深い重要な器官の病気で、まったく之がヨードの欠乏から起こるものだと判明しました。この病気が日本人に無いのは豊富な海藻のお陰で、乾海苔もあずかって力あること大なるものであります。
 もう一つ大切な事は石灰とかソーダとかカリとか、アルカリ性の灰分の多い事で、日本人のように酸性の米を食用とする国民には、身体の反応を正常に保つ上から極めて必要なものです。ビタミンから見ても、灰分から見ても、海藻類は米食国民の日本人には極めて有難い食品と云う事が出来ます。云々

用い方 乾海苔は日本独特の食料品で、老若男女を問わず嗜む(たしなむ)もの。しかも何等調理の手数をかけないでいい所に本品の特色があります。そのまま軽く火にあぶり、醤油をつけて食すると香味佳良、嗜好食品の秀逸です。巻寿司その他料理、菓子の材料として用いる範囲広く、スピード時代にふさわしいものです。即席に賞味されるものに焼海苔、味付海苔等があります。
「味付海苔」
 乾海苔を適当の大きさに切り味を付けて焙乾(ばいかん)したもので、これを製するには乾海苔を炭火で焼き、黒紫色が光 沢ある緑色に変ずるを度とし、七味、唐辛子等の香味を加えた醤油液を淡泊に且一様に刷毛を以って塗抹し直ちに焙乾(ばいかん)し、小さく切り長 方形の缶に入れて目張りをして貯蔵する。海苔巻その他浅草海苔同様に、また即席吸物を作るに重宝されます。
「焼海苔」
 焼海苔は最上級の乾海苔を炭火で焼き、適当の大きさに切ったもので、味付海苔の如く缶に入れて貯蔵します。
ほかに海苔佃煮などは、最も軽便な食品として朝夕の食膳を賑わします。



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