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お盆は“たらわた”で決まり

管理栄養士 清武 泰子
(2012.9.13更新)

 これまで私の幼少の頃の「かんぶつ」にまつわる話や、実母の話しをしてきましたが、今回は婚家の義母にまつわる“最高”の「かんぶつ」のお話しを…。

 義母は料理の好きな人で、初めて私が家に招かれた時には、2日がかりですべて手作りしたというごちそうでもてなしてくれました。
この義母の「かんぶつ」№1料理は「たらわたの煮物」です!!

 この「たらわた」という言葉を聞いて、もちろん知っている、という方と、何それ?という方がいらっしゃる事でしょう。私は若い頃、日本中どこにでもあるかと思っていましたが、どうもそうじゃないらしい……。九州でも限られた地域にしか食べる習慣がないらしいのです。

 その作り方や限られた地域しか食べないのか等々不思議に思いながら、勉強嫌いな私は「たらわた」の食文化を研究しないまま、今日に至ってしまいました。

 そのうち調べてみます…なんて猫の正月みたいな約束はやめときますが、今回の「たらわた」につきましては、今、私の知っている範囲内の話しですから、「そりゃ違うよ」「それはこうだよ」等の情報をお持ちの方は、私に教えて下さいませ。

 7月に入ると福岡ならデパートやスーパーにも登場する「たらわた」。
「たら胃」「たらおさ」という呼び名で売られている事もあります。グロテスク
な形、ちょっと臭う、いやすごくくさい時もある。で、結構価格は高い。魚の鱈のえら、えらに続く内臓をかんからに干した物です。
 何故、昔の人はこんな物が食用になると思ったんでしょうか?。どうしてこんな保存方法を思いついき、どれだけの時間をかけて内陸にまで広がって定着していったのか……、謎ですなぁ。

 「棒タラ」「タタキタラ」「スキミタラ」等と共に、夏のお盆の時期に流通します。これを見かけると「夏だなぁ」とか「もうすぐお盆がくるなぁ」と季節を感じます。
 この「たらわた」は、お盆に集まる我が家の親戚一同の最高のごちそうです。これがなきゃお盆じゃない!って感じです。

 しかし、これ程手間ひまかかる料理もなく、ちょっとでも手を抜こうものなら恐ろしい位嫌なにおいがして、食欲も失せる程です。義母は、「とにかく水さらしさえきちんと丁寧にやれば大丈夫」と、言っていました。まずは丸2日、流水にさらします。この作業を水がもったいないから、と貯め水にしたり、もうふやけて戻ったみたいと、1日でやめてしまうと、もうダメ!!。ゆでる前にもう失敗がわかります。

 夫がよそのお宅で出されたたらわたに「鼻がもげそうな位臭くて、人間の食べ物とは思えんかった」と表現した事がありますが、それ位いやな臭いがします。
 水にさらしてふやけてきたら、筋のような物やぬるっとした所をきれいに取り、丸2日流水にさらして、やっと水煮の始まりです。
 そう言えば、いつも外側で流水にさらすのできちんと対策していない時、野良猫に持っていかれてくやしい思いをした事があったなぁ。(笑)

 義母は半日程も気長にゆでていたそうですが、私が圧力鍋を持って嫁に来てからは、ゆで時間短縮となって大活躍!! それでも1時間はゆでないとやわらかくなりません。
 その時に家の中じゅうに漂うたらわたのにおい…!! ちゃんと水さらしが出来ていれば異臭とは思いませんが、初めての方には強烈な臭いでしょうなぁ、あれは……。
 「マンションや住宅密集地でたらわたを煮たら、警察が出動する騒ぎになるかもね」と息子が言った位です。やわらかくゆで上がってからようやく酒とみりんをたっぷり注いで煮始め、さとうとしょうゆでこってりつやつやに炊き上げます。

 上手に炊けたら3日間の苦労が報われて「シアワセ~~!」な~んてね。
以前は親戚も家庭で作っているようでしたが、今ではもう誰も作っていないそうで、なつかしいこの味に出会うのはわが家のお盆だけ、という訳……。皆、我先にたらわたに手が伸びます。
 そんなに手間ひまかかって作るのがおっくうになり、次第に家庭では作らない物になりつつある「たらわた」……。

 私達世代は競って食べるけど、息子世代は一年に一度のたらわたを促されて一切れ口にする世代でもあります。作り続けて食べさせてさえいれば、年を取って好物になるでしょうか…?。こればかりはおせち料理の出来合いと違って、完成品として売っているのを見た事もないし、私が年を取り、食事の仕度もできなくなったら、代わりに誰が作ってくれるでしょう?。
 伝えていくべき味だと思っていても、こんな手間のかかる料理を息子や息子のヨメが素直に受け継いでくれるでしょうか……。
「くっさーい! 何これー? まずーい!!」で終わるかも……。

 こんな食べ物はいろいろ出てきていますよね。私と夫は鯨で育ちました。夏バテする暑い時期、白粉をふいてる塩っからい塩鯨を白ごはんにのっけてお茶漬け食べたい…なんて思うのですが、息子達はもう鯨肉を「変なにおいや味がする」と言って口にしようとしません。
 食べる機会がほとんどなくなりましたからね……。シーシェパードが日本人を攻撃しなくても、鯨の食文化はもうおわりかも…と思ったりします。

 たらわたも、私が引き継いできたこの家の行事や風習も、もう私の代までかも……。あと何年たらわた作れるのかな……、などと義母を懐かしく思い出しながら、50歳以上の者ばかりで「ウマイ!ウマイ!」とたらわたを頂いたお盆でした。



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