産地を往く① 昆布ロードの基点を訪ねて
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小西良依(かんぶつマエストロ)

「昆布ロード」という言葉をご存じですか?
北海道で採取された昆布は、鎌倉時代から交易船によって大阪・沖縄・中国にまで運ばれていました。日本を縦断するそのルートは昆布ロードと呼ばれ、多くの人に届けられてきたのです。日本人の食文化と古くから密接に関わってきた昆布。その生産現場を訪ねて、まもなく昆布漁の最盛期をむかえる7月5日、北海道函館市の南茅部(みなみかやべ)地区へ向かいました。

南茅部は函館空港から北東方向へ車で一時間弱の太平洋沿岸に位置し、ブナ林の美しい山並みに囲まれています。定置網漁などの漁業が盛んで、中でも昆布の産地として古くからの歴史があり、昭和40年代には国内初の昆布の養殖に成功した土地でもあります。南茅部では、真(ま)昆布・三石(みついし)昆布・がごめ昆布の三種類の昆布が採れます。特にこの地域の真昆布は、身が厚く切り口が白いため白口浜(しろくちはま)真昆布と呼ばれます。白口浜真昆布を養殖し、尾札部(おさつべ)浜の昆布の差別化に取り組む、南かやべ漁業協同組合尾札部昆布養殖部会を訪問しました。

サクサク感の味わい「生昆布」
早速、現場をということで、漁師の佐藤幸光さんの船に同乗し、養殖の真昆布をひきあげる様子を見せていただきました。
まず、その大きさに驚きました。一本のロープを引き上げるだけで、大人一人が隠れてしまうほどの大きさの昆布です。
成長期にあたる6月頃には、一日に10~20㎝も伸びるということです。
天然の昆布は、約2年で採取されるまでに成長します。養殖の昆布は、種づけから約1年間で採取される「促成」と約2年間で採取する「養殖」という二つに分かれます。養殖といっても、ロープに種苗をつけて育てているだけですので、海や気候などの条件は天然のものと変わりません。
昆布の成長点は、付着器(ロープや岩についている根っこのような部分)に近いほうにあります。通常の植物は先端の芽の部分が生長していくのですが、昆布は、人の爪のように下部で新しい細胞が作られて上へと押し上げられて伸びていきます。成長期の天候によって、その年の昆布の出来具合が左右されるそうです。厚みのある昆布ほど上等とされるので、日照時間が少ないと、等級の高い昆布の量が減ってしまいます。
                                    

(写真)海中から出てきた昆布のボリュウムに圧倒された


引き上げた生の昆布をおそるおそるとかじってみました。サクサクとした歯応えで美味しい!乾燥した昆布とは全く違う味わいでした。「昆布は海の中でダシはでないのですか?」という質問をよく耳にするのですが、生の昆布を味わうと、しっかりとした表皮がありその内部にうま味を感じました。煮干しなどと同様に、乾燥させることでうま味がダシとなってでてくるのです。

大きくて暖かい これぞ!漁師の手
今年はホタテが異常発生しているとのことで、稚貝が細かな点々となって付いている昆布がありました。虫くいのように穴のあいた昆布もありました。それは、ウニが昆布を食べた跡だそうです。ウニも昆布もおいしいからだと納得したのですが、そのような穴があっては、贈答品として外されてしまいます。そこで、成育中の昆布から、貝類や他の海草を外していく作業が必要です。太陽光が行き届くように間引いたり、他の海草や貝類がつかないようにと常に手作業で昆布の手入れをしているそうです。「それらの作業を丁寧にすればするほど、よい昆布ができるから」という言葉が印象的でした。


(写真)私の手(右)の2倍はあろうかという佐藤さんの手


真冬の海の中での手作業で、シモヤケは当たり前だそうです。漁師の佐藤さんの手のひらを見せてもらうと、とても大きくて厚みがありました。比較しているのは、友人からは大きいと言われる私の手です。(写真2)
毎日の力仕事と手作業の繰り返しによって、漁師さんの手は大きくあたかかいものなのです。
 
昆布の白い粉は滲み出た「旨み」成分
次に、道南伝統食品協同組合の原田靖さんに加工工場を見学させていただきました。同組合は、尾札部浜の名前でブランド化をはかるため、昆布の生産のみではなく加工製品作りにまで取り組むために組織された、昆布生産加工企業組合に参加しています。
加工工場内には、海の中にあった昆布とは一転して違う姿で、乾燥した状態の昆布が山のようにあり、選別作業が行われていました。乾燥した昆布には、白い粉がふいていることがありますが、これはマンニットという旨み成分がしみだしたものです。水洗いすることなく、さっと布巾でふいて使うことで旨みを逃さず食べることができます。
とろろ昆布とおぼろ昆布の違いをご存じですか?おぼろ昆布は、一枚の昆布を薄く帯状に削ったものです。表面に近い部分は黒おぼろ、内面は白おぼろとなります。最後に残った中心部分はシート状になりお寿司のバッテラや昆布締め用につかわれます。一方、とろろ昆布作りの様子です。


(写真)道南伝統食品協組の「とろろ昆布」製造工場で


とろろ昆布は、酢につけやわらかくした昆布を何枚も重ねていき、ブロック状態にしたものの断面を削って作られるので、層状に重なった縦の線があるのです。こちらのとろろ昆布は、とろみの強い「がごめ昆布」を加えることで、昆布同士をくっつける食用糊をつかわないという、昆布そのものの良さを引き出す製品を作るこだわりがありました。
 
昆布作りは「六十手数」
昆布生産加工企業組合理事長で、昆布の養殖に国内で初めて取り組んだ大川岩男さんにお話を伺いました。
天然昆布の漁期は毎年7月17日頃~9月までの間のみです。養殖を開始する以前は、昆布漁をする男性は漁期以外は別の地域へ出稼ぎに行くことが普通でした。当初は一年のうち数ヶ月しか家族みんなで一緒に過ごせなかったそうですが、昆布の養殖に着手することで、年間を通して地元で働くことができるようになりました。今では、昆布の採取から製品になるまでを家族全員が働き手となり、家を一日もあけることもできないほどの忙しい日々が続いています。昆布作りは「六十手数」と言われるほど手間ひまのかかる作業です。

(写真)とろみが強い「がごめ昆布」の天日干し風景



(写真)真昆布の手入れ作業。昆布作りは、洗って干して形を整えたり、手数の多い作業

  
昆布を採った後、洗って干場につるして乾かし、加工場で端を落としたり、ローラーで伸ばしたりと製品ごとの形に加工します。大川さんはご夫婦二人でこの作業をしていますが、本当は8人くらいの人手が欲しいとおっしゃっていました。

後継者を待つ「昆布の海」
また、後継者不足も深刻です。同組合の10人の漁師のうち、後継者が決まっているのは3人のみです。早朝からの過酷な作業に加え、船の燃料代などのコスト増・昆布の消費量低下などの数々の問題があり、息子に継いで欲しいとは強制できないという声がきかれました。
北海道産昆布の年間生産量は、過去には3万トンでしたが、ここ十数年間で大きく減少し、今年の生産量は過去最低の1万7千トンとなる見込みです。

(写真)延々と続く浮球、広く美しい昆布漁場が後継者を待っている

しかしながら、漁師のみなさんはより良い昆布を作り続けるために「美しい海を育てる」ことにも力を入れています。
日本の食文化を支えてきた昆布を、これからも日本中の消費者に食べ続けて欲しいという想いを感じました。
最近、昆布を使ってだしをとりましたか?忙しい方におすすめの方法は、「水だし」。水1リットルあたりに昆布20g程度を、2時間以上漬けておくだけ。保存容器にいれ、冷蔵庫の中でだしをとる感覚です。是非おためしくださいね。だしをとった後の昆布も食材として色々な料理につかえる楽しさがあります。
みなさま、昆布を手にとった際には、漁師さんの手を是非思い出して下さいね。漁師さんたちの「おいしい昆布を届けたい」という情熱と愛情がいっぱいつまっています。

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