乾物の知識



乾物類は我国民の最適食である

乾物類とは何ぞや 乾物類はご承知の通り、古来わが家庭では、お惣菜用に、精進調理用に、また戦時食や備荒食(びこうしょく)として、非常に広い用途を以って発達して来たもので、主食の米穀に次ぐ重要な副食物であります。しからば、乾物類とはどんなものを指すか?。
 乾物とは食料品の一分類でありますけれども、土地々の習慣や事情によって商舗の扱い品が違いますので、確かな範囲を定め難く、一々品種をあげることも困難でありますが、普通いいなら慣わしているところは
 『惣菜、果実、菌茸(きんたけ)、穀豆類、海藻類、小魚類(こうおるい)などの素乾したもの、これに加工又は味付けしたもの、各種の穀粉類およびその加工品など、すべて生ものを乾燥又は加工して、貯蔵に耐えるようにした食料品』
 をいうので、このほか土地によっては塩干魚の一部(かつお節、削り節)、鶏卵まどをこの分類に加えて、取り扱うのが多いのであります。なお極簡単(ごくかんたん)に食料品中の『植物製品の乾燥又はかこうしたもの』と称するのも、あえて不当ではありますまい。
 従って、乾物類の語を広義に解すると、狭義に解するとで、その品種の範囲に大分差異を生じる訳でありますが、試みに大阪乾物商同業組合の取扱品を掲げますと

大阪乾物商同業組合営業品目
 椎茸(しいたけ)、香茸(こうたけ)、木耳(きくらげ)、岩茸(いわたけ)、凍豆腐(こおりとうふ)、凍蒟蒻(こおりこんにゃく)、干瓢(かんぴょう)、割菜(わりな)、切干大根(きりぼしだいこん)((せんぎり千切)・小花切(こはなきり)・角切(かくきり)・花丸(はなまる))、乾紫蕨(ほしぜんまい)、乾牛蒡(ほしごぼう)、乾蓮根(ほしれんこん)、乾海苔(ほしのり)、青板海苔(あおいたのり)、青苔(あおのり)、青苔粉(あおのりこ)、壽泉寺苔(じゅせんじのり)、三島苔(みしまのり)、鶏冠苔(とさかのり)、若布(わかめ)、鹿角菜(ひじき)、切荒布(きりあらめ)、素麺(そうめん)、干饂飩(ほしうどん)、干蕎麦(ほしそば)、葛素麺(くずそうめん)、豆麺(とうめん)、冷麦(ひやむぎ)、白玉粉(しらたまこ)、麭粉(ぱんこ)、黍粉(きびこ)、蒟蒻粉(こんにゃくこ)、晒餡粉(さらしあんこ)、漉餡粉(こしあんこ)、芥子粉(からしこ)、山椒粉(さんしょうこ)、蕃椒粉(なんばこ)、白胡麻(しろごま)、黒胡麻(くろごま)、荏胡麻(えごま)、麻ノ実(あさのみ)、罌栗(けし)、干栗(ほしくり)、玄黍(くろきび)、実胡桃(みくるみ)、銀杏(ぎんなん)、榧実(かやのみ)、焼麩(やきふ)、庄内麩(しょうないふ)、干湯葉(ほしゆば)、莫大海(ばくだいかい)、蕪骨(かぶらぼね)、鳥黐(とりもち)
 などですが、これは組合として公定した品目だけのことで、例えば寒天組合に属する寒天や石花菜(てんぐさ)その他海藻類、粉商工組合に属する各種の穀粉類、澱粉類の如きは、昔から当然乾物商の売捌(うりさばき)にかかり、その他塩干魚商に属する鰹節、削り節など、昆布商に属する昆布各種も乾物商の扱いが多くさらに大阪乾物商では各種の食料缶詰、瓶詰類を重要な販売品としていることを特記いたして置きます。


乾物商品のいろいろを写真で紹介してある。現在では見られない商品も…。

 

意義深き用途と使命 乾物類は、われわれの祖先が、過去幾百年の永き間において、或いは本能的に、或いは霊覚的(れいかくてき)に、生鮮食品の凡ての栄養素を保有せしめ、日常食として、または貯蔵食として適するように工夫完成したもので、その多くは本邦特有のものとして誇るに足るのであります。
 さらに乾物類には、食料品として左の通り意義深き用途と使命をもつていることを忘れてはなりません。

1.永く貯蔵に耐え、長距離の輸送に適すること。
戦時又は異変に際し重要食糧たるは勿論、艦船等の食糧として至適(してき)し、また邊僻地(へんへきち)の貯蔵食糧として最も大切なものである。

2.季節外に嗜食(ししょく)の出来ること。
季節外において、甲地産を乙地に送るとか、寒地のものを暖地で食膳に上すことが出来、大変便益を与えると同時に食欲を満足せしむるものであり、殊に在外同胞などは故国の食品を入手してぼきょうかん慕卿感をい慰するすることが出来ます。

3.備荒食糧(びこうしょくりょう)たること。
わが邦の如き天災地変の頻繁に起こる国、作物の豊凶の激しい国では、平常から食糧の蓄積をなし需給の調節に備えることを必要とされますが、乾物類はこれが目的のために理想的食品ですからその製産を奨励すると同時に、これを常に食用するの慣習をつけて、消流を円滑ならしめて置くこともまた亦重要であります。

4.衛生的食品たること。
すべて食物は生のまま用いること、栄養上に良いことかも知れぬが、とかく生ものには黴菌や条虫回虫等の有害物が附着し易いので、衛生上から安心ならぬもの、即ち生もの食用の際には一度消毒煮沸を要するとされます。乾物類は、乾燥または加工の間において、これら有害物は自然に滅殺されており、且つ腐敗醗酵作用を起こさず、永く保存に耐えますから、昔から悪疫流行の場合などの安全食品、衛生食品として定評があります。

5.価格至廉の経済食品たること。
あらゆる食品は、歳柄により、土地により豊凶があります。従って需給の過不足や価格の変動は絶えず起こります。乾物類とても略(ほぼ)同様ではありますが、乾物類はその作柄により生産を調節し、且つ甲地が凶作でも乙地が豊作であれば、そこに需給の調節が行われ、価格の激動を免れるわけです。殊に貯蔵食品たる乾物類は、作柄が良くて品の有り余るようなような時に多く製造されるものですから、その価格は常に低廉を保ち、時に生もの以下の価格を現し、しかも煮熟により量の増え方が著しいのであります。これ古来万戸の惣菜向きとして愛用される所以で、要するに頗る経済的な、大衆的な食品であります。

 乾物類は栄養価豊富 ところが、世間の一部には、乾物類の食用価値について、とんだ疑惑や、誤解をかけている人があります。たとへば「乾物とは、その名称の示すが如く、生ものの干からびたものだから、どうせ、美味くはないだろう」とか、「栄養価地などは全くないだろう」とか、「消化吸収が良くないに違いない」とか。
 或いは「調理法が面倒で、トテモ時代おくれの食べものだ」などと批評や曲解をくだし、ひどい濡衣を着せます。なるほど多品種の乾物の中には、それらを裏書するような代物がないとは申されない。けれども一面には、この乾燥または加工のために、
 味わいを増したものがある。
 栄養価を高めたものがある。
 消化を促すものがある。
 調理の手数を省くものがある。
というわけで、品により大抵その特徴の一つや二つ三つを具えていると見られます。その例は、
 椎茸 は生椎茸を乾燥することにより、生茸に含有しているエルゴステロールがビタミンDに変化し、紫外光線と同一効用をなす。
 切干大根 は乾燥製造により一種の甘味を帯ぶるに至り、その繊維は沢庵漬けの場合と同様整腸の効をなす。
 凍豆腐 は生豆腐を凝結収縮したものであるから、最も多量の蛋白質、脂肪分及び灰分を包含するに至る。
 乾海苔 は乾燥灸焙によって、亳もビタミンA、Bを損せず、その独特の製法と高き香気とにより食用を簡易にし、且つ食欲を進める。


「乾物の知識」に掲載された、各種乾物の栄養成分表

 
 等々、その他の諸品についても同じく例示を憚らぬものであります。もしそれ、調理法が面倒でスピード時代にふさわしかぬというに至っては、凡そ特殊の加工食品(味付け缶詰の如き)を除いては、生そのままで用い得るというものは幾干あるでしょうか。いずれの食品も皆多少の調理を行って初めて味覚を満足せしめるもので、乾物といい、生物といい、その調理上の労作には大なる径庭ありとは思われません。要は、主婦の頭脳の働き、調理の練不練によって分かれるのではないでしょうか?。
 以上により、乾物類の食用価値につき、大約の所見を申し述べましたが、以下項を改めて、乾物各品につき一通り解説を加え、その用い方および調理法を記述したいと思います。



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