解説 大衆向き蔬菜(野菜)の花形である大根を種々の形に截って(切って)乾し上げ、長期間の保存に適せしめたもの。製造法によって名称が違います。
(千 切) 宮重大根を細い線状に切り乾燥したもので、尾張の中島と知多地方、三河の知立(ちりゅう)、日向、阿波、伊勢、遠州等の各地に産します。
(角 切) 大根を短冊形に切って干し上げたもの、尾張の名産。
(花 丸) 輪切りに薄く切り、干し上げたもの、矢張り(やはり)尾張の産。
(小花切) 大根を捻干(ねぢぼし)に細長く乾燥し、それを輪切りにしたもの、阿波が主産地で紀伊、播州信州にも出来ます。
成分及び栄養価 生の大根は水分と繊維ばかりです。その成分から見ると、殆ど謂うに足らぬものでしょうが、ビタミンを含みヂアスターゼーに富むは誰も知るところ。とにかく、わが国では各戸の厨房に欠いてならぬもの、しかも貴賎(きせん)の差別なく賞用するからには、その特殊の価値を認めざるを得ません。
切干大根とても生大根と略同様(ほぼどうよう)で、遍く(あまねく)食膳にのぼります。その組成をみるに
| 水分 | 蛋白質 | 脂肪 | 炭水化物 | 灰分 | カロリー |
切干大根 | 23,50% | 10,85% | 2,92% | 39,58% | 23,15% | 匁8,78 (g)2,33 |
切裂大根 | 31,08% | 7,89% | 0,68% | 46,50% | 13,85% | 匁8,59 (g)2,29 |
とありますが、かなり広い用途を有し、動物質を加重に用いるために起こる壊血病や動脈硬化証を治すこと、北洋その他遠洋漁業に出かける船には是非積み込まねばならぬ副食物であること、非常事変時に真っ先に徴発(ちょうはつ)される食料たること、等々、切干の使命はナカナカ重い。要するに血液の循環を良くし、その浄化作用を爲す(為す・なす)効果は顕著であります。
また大根の繊維は腸の蠕動作用(ぜんどうさよう)を助け、胃腸機能を増進するといわれますが、干し大根も同様効能がありましょうし、さらに干し大根は乾燥によって一種の甘味を帯びるが、その成分の変化は栄養上に見逃せないとも或る学者が説いています。
用い方 生大根とは異なって、干し大根特有の用途を有し、就中(なかんずく・とりわけ)、煮付け、魚膾(うおなます)、汁の実、和え物等、調理の応用範囲は頗る廣い(すこぶるひろい)。それは皆様にお委せ(おまかせ)いたします。
調 理 法
1.名古屋名物の干し大根の料理
(一)
材 料 干し大根(15匁・約56.25g)、油揚(2枚)、醤油(5勺)、砂糖(大さじ1杯)、味の素
調理法 干し大根を手早く水に浸して適宜に切り、かぶる位の水と共に鍋に入れ、軟らかくなるまで水炊きして後、細く切って油揚、醤油、砂糖、味の素すこし加えて煮上げます。
(二)
材 料 美濃干し大根:原料は守口大根(20匁・約75g)、酢(1合)、砂糖(大さじ2杯)、塩(少々)、醤油(1勺)、味の素(少し)
調理法 酢漬けは水洗いして搾り、酢と水同量、砂糖1割、塩少し、醤油、味の素を合わせ中に浸し置き、能(良く)味の泌だ(にじんだ)時大根をおろして切ります。
2.干し大根のから煮
材 料 切干大根(15匁・56.25g)、ゴマ油(少々)、醤油(3勺)、塩(少々)
調理法 きりぼし大根は水にてザッとあらい、鍋に入れ、少量の塩を加え20分間の後火(のちび)にかけ、しばらく煮て、やはらかになったときゴマ油と醤油をさし、汁気の煮つまるまで煮て火からおろして供す。きりぼし大根は長く煮るほど美味ゆえ、朝食に用うるものは前夜の中に煮ておくのも宜しいでしょう。
3.千切大根の煮付
調理法 切干大根を洗って、千切のならば一寸2,3分に切って鍋に入れ、鰹節の削ったもの小匙(こさじ)2杯を加えて熱湯を注ぎ入れて火にかけ、大根の軟らかくなるまで煮、味醂小匙1杯、醤油大匙1杯を入れて煮、火から下ろして味の素を少し加え、鍋のままおいて後盛分ける。これに油揚1枚を千切にして一緒に煮るとよい。
4.ハリハリ大根
調理法 切干大根20匁(約75g)を洗って、千切のものならば1寸2,3分に切り、水気を切り、丼に味醂大匙1杯半、砂糖大匙2杯、酢大匙3杯をまぜ合わせた中に入れ、20~30分間浸しておき、塩少量と醤油少しで味をつけ、小鉢に盛り分け、上に柚子の皮の千切をふりかけて出す。これは酒の肴にも一寸(ちょっと)よろこばれ、また漬物代わりに出すとよい。また、これをマヨネーズ・ソースで和えると美味しく、気の利いたものになります。
5.切干大根麺の梅肉和え
調理法 千切大根20匁を洗い、水気を切って、メリケン粉大匙四杯をふりかけ、一本づつよくまぶしつけ、室内に紐を引張り、これにかけて一夜乾かし、翌日熱湯を沸きたてた中にいれ、ざっと茹で、すぐに冷水にとって笊にあげ、梅肉で和えて皿に盛り分け、青海苔粉をふりかけて進め侑(すす)めます。梅肉は梅干七個を浦こしにかけ、砂糖大匙三杯を入れてまぜ、味醂一滴を入れると良い。