乾物の知識



菌茸乾燥品の特長と調理法:椎茸①

 「乾物の知識」の冊子には、類別して9品類、製品の種類で64品種に分けて、それぞれの製品の産地(昭和6年当時)や製品の特徴などの解説、製品の成分と栄養価、用途、調理法などが掲載されている。当時どのような紹介が行われ、調理法があったのかを知る上で参考になるので、それぞれの製品ごとに全文を記載することにした。
 また、産地や調理法については、近年の産地・生活環境の変化で栄枯盛衰が見られるため、新たに取材することにした。過去と現在、将来の動向にどの変化が見られるのか、その辺を見据えた取材内容になればよいと思っている。
 さらに、いま日本の食生活に大切な食品がどのようなものであるかを考えながら、取材を進めてみたいと考えている。
 まず、「乾物の知識」で紹介されている製品は次の通りである。

菌茸乾燥品

 乾燥菌茸で、一般に愛用されているのは椎茸、香茸、木耳、岩茸の4品であります。近時、農林省の三村鐘三郎博士などの唱導によって栽培熱を高めて来た白木耳(中国ではギンアールと呼ぶ)は、中華料理材料中の高貴品で、強精的効果を謳われていますが、日本では九州各地、長野、静岡両県下などにようやく試験的栽培を見るぐらいで、その商品化する日は、前途まだまだ遠いと思われます。また以前、干松茸や干平茸というものを見ましたけれども、今日はほとんど市場で販売されていません。次ぎに、前品4品を紹介しましょう。

椎茸(しいたけ)
解説 擔子菌類、食用菌茸中の最高級品。その食用は有史以前に始まり、仲哀天皇の御宇熊襲御征討のみぎり、香椎の宮に行在し給うた時、土民は、香ばしき椎の菌を供御に奉つたということが古書に見える。わが国では、余程古い頃から食用されたことと想像されます。
 椎茸は、生のまま賞用されますが、生産の大部分は乾燥を行い、普通、椎茸といえば乾椎茸のことを指します。南に陽を受ける山地の濶葉樹の樹幹(椎、楢、栗、樫、四つ手等の木)に自然発生するものですが、近年は企業的に或いは副業的に、人工栽培が盛んに行われ、漸次大量生産となって来ました。その主産地は九州の大分、宮崎、鹿児島、熊本の4県。本州では静岡、和歌山、三重、高知その他各県、北海道や朝鮮半島、中国でも相当に生産を見ますが、その品質は下等で優良品はわが国独特のものとされます。而して、わが国の総生産額は5,6百万円。そのうち2~3万円は中国、欧米各国へ仕向けられ、なかなか侮りがたい輸出品となっています。
 この茸の発生は春秋両期に多く、冬季にも多少の生産を見ます。春生えを「春子」、秋生えを「秋子」と称し、冬生えには「冬茹」が出来ます。そして産地で出来たままの大小形態不揃いなものを「山成品」といい、一旦大阪市場に入荷すると、問屋において丁寧に品質、形状により大撰、中撰、小撰、荒葉、桝物、小間、冬茹などに撰分くます。
 その区別により需要口も異なって来る訳で、大撰以下荒葉までは料理屋、寿司屋、惣菜、輸出向け等に仕分け、桝物と小間は煮出汁用に使われますが、概して肉薄の形の大きなものは内地向き、肉厚の丸っこい形のものは輸出向けとなります。しかし、味からいえば、肉厚の輸出向けが勝り、さすが美食の国中国人は椎茸の眞味を解すといわれます。
産地と産額 昭和5年における椎茸主要産地の産額は下記の如くです。
産 地生産額(単位斤)価格(単位円)
大分県500,000550,000
宮崎県500,000451,000
鹿児島県160,000231,000
熊本県110,000105,000
朝鮮半島61,00094,500
四国80,000110,000
中国(日本)80,00094,000
和歌山県120,000180,000
静岡県300,000180,000

(注)単位・1斤・600g
成分及び栄養価 椎茸が健康によい食物であることは無意識のうちに誰でも知る所で、昔から不老長生の霊的食品と信ぜられました。漢方医書には感冒、創痍に奇効ありとし、近くは医学博士石川仁一郎氏が風邪煎薬としての実験、同鈴木梅太郎氏がセムシ患者(くる病)に対する治病実験等々、幾多の文献が存しています。食品養価について鋭敏な中国人や欧米人はつとに強壮剤として用いています。その成分及び栄養価をあげると下記の通りです。
 水分・13.81%。蛋白質・14.19%。脂肪・2.64%。含水炭素・43.87%。灰分・15.33%。カロリー・2.64g。
 即ち椎茸に多量に含有するエルゴステロール(ビタミンD)は紫外線と同一の効果を奏するものであるから、煤煙の都の大阪人や、日光不足の裏日本の人々は是非食べねばならぬというのであります。
用い方 椎茸の香気は松茸より強く、甘味も多く、従って味は濃厚であります。その甘味はマンニット還元糖で、グルタミン酸も含有しており、昔から精進料理の煮汁に用いられるのもこのためです。調理法はいろいろ多い。煮付け、付焼き、白和え、鮨等に用い、特に中華料理では利用範囲が広いようで、大抵の献立に椎茸が加わっています。

調理法
1.椎茸の照煮(てりに)
材料(6人前) 椎茸中15匁、砂糖10匁、醤油1勺
調理法 椎茸を手早く水洗いした後、したした位の水に浸して置き、軟らかくなった時、石付きを切り、鍋に浸し汁と共に入れ砂糖、醤油も同時に加えて能く煮、汁が全くなくなり光沢の出た時用いる。

2.椎茸のつくだ煮
材料(6人前) 椎茸中15匁、醤油5勺、キザラ10匁、水飴15匁、土生姜10匁。
調理法 椎茸は手早く水洗いし、後少量の水に浸して柔らかにし、石つきを去り細く糸切りとし、生姜も同様に切り、鍋に二品と砂糖、水飴を加えて弱火にかけて良く煮詰め、光沢の出た時用いる。お弁当の副食物やお茶漬けに大層結構です。

3.椎茸の葛煮(くずに)
材料(6人前) 椎茸10匁、筍(缶詰)30匁、三つ葉小1把、鰹煮出汁3合、塩・醤油・味の素・絞り生姜・葛粉少々。
調理法 椎茸は少量の水に浸して柔らかにし、後適宜に切り、筍は一寸位の長さの短冊型又は花型に薄く切り、鍋に一合の煮出汁を加えて醤油、砂糖にて薄味をつけ、残りの煮汁に椎茸の浸し汁を加えて味をうすめ、一度加減を見て葛粉を水溶きして加えて、全体をどろりとさせ、絞り生姜を加えて進めます。

4.椎茸の天ぷら
材料(6人前) 椎茸30匁、三つ葉小2把、メリケン粉1合、コーンスターチ3勺、玉子大1個、酒3勺、揚油、大根卸し、出し醤油。
調理法 椎茸のザット味付けしたものを用意し、丼にメリケン粉とコンスターチ(トウモロコシの粉)を入れ、別に玉子を割って良く溶き、酒と水少々を加えて後粉の中に手早く交ぜ(練らぬよう注意すること)トロリとさせて置き、一方深鍋に油を煮立て椎茸に衣をつけて狐色になる迄揚げて白紙に取り出し、三つ葉の一寸五分位に切ったもの10本程半分位の所まで手でつまみ、衣をつけて三つ葉を色よく揚げ、お皿に白紙を敷きて椎茸三つ葉共に盛り、卸し大根を添えて出し、醤油を別にそえて出します。尚魚や肉の天ぷらと共に出せば合理的です。



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